ボードゲームで育む計画力と実行力 家庭での実践アイデアとゲーム紹介
ボードゲームで育む計画力と実行力 家庭での実践アイデアとゲーム紹介
家庭での学習や日々の生活において、目標を設定し、そこに至るまでの手順を考え、実行に移す力は非常に重要です。これらはまとめて計画力や実行力と呼ばれ、子どもたちが将来主体的に課題に取り組み、目標を達成していく上で不可欠な能力と言えるでしょう。
机上の学習や言いつけを守るだけでは、なかなかこれらの能力を体系的に育むことは難しい場合があります。そこで注目されるのが、ボードゲームを通じたアクティブラーニングです。ボードゲームは、限られたリソースの中で最善の手を考え、行動し、その結果を受け入れるという一連の流れを、楽しみながら自然と経験できる優れたツールです。
本記事では、ボードゲームがどのように計画力と実行力の育成に役立つのかを解説し、具体的なゲームの紹介、そして家庭で実践する上での効果的なアイデアをご紹介します。
計画力と実行力とは:ボードゲームとの関連性
計画力とは、目標達成のために必要な要素を分析し、手順や方法を具体的に考え、準備する能力です。一方、実行力とは、立てた計画に基づき、実際に行動を起こし、継続し、状況に応じて計画を修正しながら目標に向かって進む能力を指します。
ボードゲームの多くは、プレイヤーに何らかの目標(勝利条件)を提示します。プレイヤーは、その目標を達成するために、現在の手持ちのカードやコマ、盤面の状況、相手の出方などを考慮し、次に取るべき行動を考えます。これはまさに計画立案のプロセスです。そして、実際にカードを出す、コマを動かすといった行為が実行にあたります。
ゲーム中は常に状況が変化するため、最初に立てた計画がうまくいかなくなることもあります。その際に、計画を柔軟に見直し、代替案を実行する能力も養われます。また、計画通りに進まないことによる失敗や、予期せぬ成功体験を通じて、計画と実行の間のフィードバックループを体感し、より現実的で効果的な計画を立て、粘り強く実行する経験を積み重ねることができます。
計画力と実行力を育むボードゲームの選び方
計画力と実行力の育成に焦点を当てる場合、以下のような特徴を持つボードゲームを選ぶことが推奨されます。
- 複数の手番やラウンドにわたって戦略を練る必要があるゲーム: 短期的な視点だけでなく、ゲーム全体の流れを見通して計画を立てる必要性が生じます。
- リソース管理の要素があるゲーム: 限られた資源(お金、カード、資材など)をどのように使い分配するかを計画し、実行する判断力が求められます。
- 選択肢が多く、その選択が後の展開に影響するゲーム: 自分の行動の結果を予測し、責任を持つ経験につながります。
- 他プレイヤーとの相互作用があるゲーム: 相手の計画を読み解き、自分の計画を調整する柔軟性や、相手の行動に反応して計画を修正する実行力が養われます。
これらの要素を持つゲームは多岐にわたりますが、以下にいくつか具体的なゲームとその教育効果のポイントを紹介します。
カタンの開拓者たち
対象年齢目安: 8歳以上 プレイ人数: 3~4人
カタンは、サイコロの出目によって得られる資源を使い、道路や家、都市を建設して勝利点を獲得するゲームです。このゲームでは、以下の点で計画力と実行力が求められます。
- 長期計画: どの場所に開拓地を建てるか、どの資源を優先的に集めるかなど、ゲーム全体の勝利を見据えた計画が必要です。
- 資源管理: 限られた資源を、目先の建設に使うか、将来のための発展カードに使うかなど、計画に基づいて資源を管理し、実行する判断力が問われます。
- 状況への対応: サイコロの出目や他プレイヤーの行動によって資源の入手状況や建設可能な場所が変わるため、計画を柔軟に修正し、その場で最適な手を実行する能力が養われます。
チケット・トゥ・ライド
対象年齢目安: 8歳以上 プレイ人数: 2~5人
チケット・トゥ・ライドは、各地を結ぶ鉄道路線を建設して得点を稼ぐゲームです。目的地チケットに書かれた都市間を線路で繋ぐことが大きな目標となりますが、どの線路をいつ敷くか、どの色のカードを集めるかなど、計画的な行動が不可欠です。
- 目標設定と経路計画: 目的地チケットを見て、どのような順番で、どの経路を使って線路を繋ぐかを計画します。複数の目的地がある場合は、効率的な経路を考える必要があります。
- リソース(カード)の管理と実行: 必要な色のカードを集める計画を立て、手番で「カードを取る」か「線路を敷く」かの実行を選択します。カードが足りない場合は、計画の見直しやカード集めの優先順位付けが必要です。
- 競合と妨害への対応: 他のプレイヤーも同じ区間の線路を狙っている可能性があるため、計画が妨害されることもあります。その際に、別の経路を考えたり、計画の優先順位を変えたりする実行力が問われます。
カルカソンヌ
対象年齢目安: 7歳以上 プレイ人数: 2~5人
カルカソンヌは、地形タイルを並べて都市や道を完成させ、自分のコマ(メープル)を置いて得点を稼ぐゲームです。手番で引くタイルはランダムですが、どのタイルをどこに置くか、どの地形にメープルを置くかなど、毎回計画的な思考と実行が求められます。
- 短期・中期計画: 今引いたタイルをどこに置けば最も有利か、次に引くかもしれないタイルを考慮して計画を立てます。小さな道や修道院を確実に完成させる短期的な計画と、大きな都市を完成させる中期的な計画を並行して考えます。
- リソース(メープル)の配分: 置けるメープルの数には限りがあるため、どの地形にメープルを置くか、いつ回収するかなど、メープルを最大限に活用するための計画と実行が重要です。
- 他プレイヤーとの駆け引き: 他プレイヤーの地形に相乗りしたり、完成を妨害したりすることも可能であり、相手の動きを予測して自分の計画を調整する柔軟性が養われます。
これらのゲームはあくまで例であり、他にも計画や実行の要素を含むボードゲームは数多く存在します。お子様の年齢や興味に合わせて、様々なゲームを試してみることをお勧めします。
家庭での実践アイデア:計画力と実行力をさらに引き出すために
ただゲームを遊ぶだけでも一定の効果は期待できますが、計画力と実行力の育成という視点から、家庭で少し意識することで、より学びを深めることができます。
- プレイ前に目標設定を促す: 「今日は、カタンで一番大きな都市を二つ作ることを目標にしよう」「チケット・トゥ・ライドで、この長い路線を繋ぐことに挑戦してみよう」など、ゲームを始める前に具体的な目標を持たせる声かけをします。自分で目標を設定することで、それを達成するための計画を立てやすくなります。
- プレイ中に「なぜ?」と問いかける: 子どもが手番を終えた後、「なぜそこにコマを置いたの?」「どうしてそのカードを使ったの?」など、その手を選んだ理由や意図を尋ねてみましょう。自分の行動の根拠を言葉にすることで、無意識に行っていた計画を意識化する助けになります。答えに詰まるようであれば、「何を考えていたの?」「どんな風に進めたい?」など、ヒントを与えながら引き出します。
- 計画通りに進まない場合の対応を促す: ゲーム中に予期せぬ事態(サイコロの出目が悪い、相手に邪魔されるなど)が起きた際に、「どうする?」「計画を変える必要があるかな?」などと問いかけ、状況の変化に合わせて計画を修正し、次の行動を考えるよう促します。失敗を責めるのではなく、「次はどうすればうまくいくかな?」と一緒に考える姿勢が大切です。
- ゲーム後の振り返りを丁寧に行う: ゲーム終了後に、「今日の目標は達成できたかな?」「どうして勝てた(負けた)と思う?」「計画通りに進んだところと、そうではなかったところはどこ?」など、計画と実行の観点から振り返りを行います。成功体験からは計画の有効性を学び、失敗体験からは計画の不備や実行の課題を見つけ出し、次に活かす学びを得られます。
- 「もしも」の思考を促す: 「もしあの時、別の手を選んでいたらどうなったと思う?」「次に同じような状況になったら、どんな風に計画を立ててみる?」など、 hypothetical thinking(もしもの思考)を促すことで、多様な可能性を考え、より柔軟な計画立案能力を養うことができます。
これらの働きかけは、ゲームの勝敗以上に、プレイプロセスそのものに焦点を当てることを意図しています。子どもが自分で考え、試し、学びを得る機会を最大限に引き出すことを目指しましょう。
まとめ
計画力と実行力は、勉強や仕事だけでなく、人生のあらゆる場面で役立つ汎用性の高い能力です。これらの能力は、知識を詰め込むだけでなく、実際に「やってみる」経験を通じて育まれます。ボードゲームは、この「やってみる」を安全で楽しい環境で繰り返し経験できる素晴らしいツールです。
今回ご紹介したゲームや実践アイデアを参考に、ぜひご家庭でボードゲームを通じたアクティブラーニングを取り入れてみてください。ゲームの中で立てた小さな計画と実行の経験が、将来大きな目標を達成するための確かな力となるはずです。
本サイトでは、他にもボードゲームを使った様々な能力の育成アイデアやゲームレビューを紹介しています。ぜひ他の記事も参考に、ご家庭でのボードゲーム活用をさらに豊かなものにしてください。